初心者にとっての難問その1〜作曲者が判らないとCDが探せない

 私が10年前ぐらいだったか,クラシックCDの購入のときの経験を,「私」から「あなた」に置き換えてみました。

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 「あっ!この曲いいなぁ〜,どっかで聞いたことあるし…あぁ,小学校の頃の下校の放送の音楽だ…。」

 ラジオで流れていた曲を聞きたくなったあなた,曲が終わって,この曲は「ヒソウ」というピアノの曲であることが,アナウンスによって判ったので,忘れないようきっちりメモしておきました。作曲者はよくわかりませんでした。

 「『ヒソウ』かぁ…あんまり悲壮感無かったけどなぁ…。でも,近所のショッピングモールにあるCD屋に行けば判るだろう。今日は寝ようっと。」

 翌日,近所のCD屋さんに行くと…ありません。クラシックコーナーがないのです。
 店員さんに聞くと,「何年か前までは,クラシックコーナーを設けてたんだけどね…,あんまり売れないから…街の外資系のCDショップならクラシック・コーナーがありますよ」とのこと。どうしても「ヒソウ」を聞きたいあなたは,バスで街まで行き,街のCDショップに到着しました。 街のCDショップは1階がJ−POP,2階から上は洋楽・ジャズ・クラシックで,2階から上は今まで上がったこともない,いわば「未開の地」,あなたはドキドキしながらエスカレーターを上がります。エスカレータを上がるたび,エレキギターの不協和音と共に絶叫が聞こえたり,ストリングベースとトランペットが丁々発止の掛け合いを演じる様子が聞こえたりと,様々な音楽が聞こえてきます。「いろんな音楽があるんだなぁ。」すると,いきなり「ジャジャジャジャーン!」と聞き覚えのあるメロディが聞こえてきました。当たりを見回すと,他の階とは違って,CD棚が木目調になってます。おまけに商品を見ているお客さんも,何故かしかめっ面で黙々と商品棚とにらめっこしているようです。一面クラシックのCDだらけです。
 「クラシックって,こんなにCDが売られてたんだ…知らなかった…」

 早速,CDを探そうと棚に向かいましたが…わかりません。作曲者が判らないと,探しようのない商品の並び方になっているうえ,このCDショップでは輸入盤を多く扱っているため,日本語のCDよりも英語やアルファベットなのに,ちょっと英語ではないような言葉が書かれているCDが多く,全く判りません。困ったあなたは,店員さんに聞くことにしました。店員さんも,なんとなく1階の店員さんとは,雰囲気が違って,細身でちょっとあごひげを生やし,自らもピアノを弾きそうな雰囲気を漂わせている店員さんです。

 「すみません,『ヒソウ』って曲のCDが欲しいんですが」
 「『悲愴』ですか…チャイコフスキーのですか,ベートーヴェンのですか?」
 「えっ?『ヒソウ』にも2種類有るんですか!」

 〜『ヒソウ』に種類なんかあるとは全く知らなかったなぁ。大体「川の流れのように」といえば,「美空ひばり」と一対一でつながるもんだろう…と,あなたは弱ってしまいました。もう店員さん以外に頼る人はいません。

 「実は,ラジオで聴いた曲がそういうタイトルだったので…」
 「そうでしたか。え〜と,お客様がラジオで聴いた曲は,どんな『悲愴』でしたか??」
 「どんなって…ピアノで…」
 「あぁ,それなら恐らくお客様のお求めになりたいCDはベートーヴェンの『悲愴』ですね。どうぞ,こちらへ」

 〜「ピアノ」といった瞬間に,ベートーヴェンとわかったってことは,チャイコフスキーの「ヒソウ」はピアノじゃないんだな…なんだろう…まぁ,何はともあれやっと買える…,と安堵したあなた。しかし,更なる試練が待ち受けていたのです。