まず,何から聞くか…

 クラシックを聞くきっかけ,というのは,ありそうでなかなかないものです。
 最近では平原綾香Jupiterが爆発的に売れたので,原曲のホルスト組曲「惑星」でも聞いてみようか,と思われた方も少なくないと思います。
 こうした,歌謡曲や,映画・テレビ番組の挿入曲がきっかけでクラシックを聞く場合は,そのアルバムやサウンドトラックを購入するなり,テレビ局に曲名を問い合わせて曲名と演奏者名(サービスの良いところだと使ったCDの商品番号まで教えてくれるケースも)を教えてもらうことで希望の曲にたどり着きます(私はこのタイプでした)が,

「クラシックを聞いてみたいが,何から聞いたらよいのかわからない」

 こういうときクラシックを聴く人に聞くと,よくある回答としては,

  1. 具体的に曲を教えてくれた上に薀蓄(ウンチク)までくっつけてくれる。
  2. 「好きな曲から聞けばいいんだよ」という。

 日頃孤独なクラシックリスナー(ことにリスニングオンリー者)にとっては,クラシックファンを獲得する絶好の機会,少なくともこうした質問は,大変嬉しいものなのですが,逆に,このチャンスを逃してしまうと,せっかくの可能性を失ってしまうことも予想されるので,回答に対しては慎重に慎重を重ねざるを得ません。
 いかに,言葉少なに,簡潔に,作曲者と曲名に加え,何故この曲を選んだか,曲の雰囲気はどうか,質問者が「クラシック聞くと,ちょっと眠くなるのぉ」なんて言っている人ならば,「聞けばそのよさがわかる」なんて回答はとてもできないので,眠くならないために,その曲を聴くためのワンポイントを付け加えた上で,CMやJ-POPで使用されている例を挙げつつ,1分程度で説明しなければなりません。
 通常,J-POPなどでは「最近イイ奴っている?」と聞けば,「今度出た○○ってバンド,すっげぇいいよ。マジ。なんかさ,今までにない感じ」という回答で,なんとなく想像できる上に,かなり興味が湧くわけです。それは質問する側,答える側に共通の「イイ」音楽観があるためで,そうした一言二言ですむのですが,クラシックにいままで興味が無かった人に興味を持ってもらうということは,共通した「イイ」音楽観がかなり異なっているケースが多く,そうした一言二言で回答が来るものだと思っている質問者に,的確に一言二言で説明をすることは,困難を極めます。だからといって,ただ「いいから黙って俺の勧める曲を聴け!」ともいえないのです。体外,クラシックリスナーが毛嫌いされる理由の一つが,その解説に1分以上かけてしまい,せっかくのワンポイントが「ウンチク」に変わってしまうところにあります。
 そうすると,「あの曲がよい」と説明をはじめてしまうことは,かなりのリスクがあることから,具体的な曲名を挙げることは避け,相手の自由意志により嗜好にあう曲を探せ,ということになります。
 「好きな曲から聞けばいいんだよ」
 質問者はがっかりします。「こちらは好きな曲がわからないから聞いているのに!」
 でも,先に書いたように,クラシックリスナーは,もう質問者からいやな顔をされたくありませんので,それしか応えようがないのです…。

 私自身も,お勧めするとすれば,具体的な曲ではなく,Classical Everなど,クラシックの聞き所を集めたCDをお勧めします。あのCD1枚で,かなりの曲の良いところを聞くことが可能なうえ,曲数が多いことから,あなたの嗜好にあう曲がおそらくあることでしょう。運良く,そこで嗜好にあう曲を見つけることができたら,いよいよ,その曲について深く調べはじめれば,よいのではないでしょうか。
 Classical Everでは,ちょっと出費が…という方は,さわりで覚えるクラシックの名曲50選もお勧めです。Classical Everに比べ,解説もついているうえに,ちゃんとした「ウンチク」がついて,1冊あたりClassical Everの半額で購入できるところも魅力です。
 それでもまだ高い,とおっしゃる方には「ダイソー100円CD」をお勧めします。解説ナシ,モノによっては,演奏団体及び指揮者すら怪しいもので,そのポリシー無き製作姿勢には,ネットでは批判も見えますが,収録されている演奏のレベルはかなりのもので,我々初心者が聞くきっかけとしては,良いでしょう。